第1章

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クラス委員の彼女は、こういったトラブルがおこるとすぐかけつける。霞ヶ丘には生徒の問題はなるべく生徒同士で解決するという暗黙のルールがあるからだ。 「いくら入っていたの?」 「四万円」 「四万! そんなに?」 「帰りにデパートで服買うつもりだったから。あーん、どうしよう?」 「もう一度よくさがしてみなさいよ」  彼女は学生鞄の中身を全部ひっくりかえして、泣きだしそうになりながら財布をさがしている。周りの友人たちもどこかに落ちてないかと教室のすみを見まわしたりした。   奈々はそのまま本のページをめくった。彼女ともとくに親しいというわけではないし、奈々がいっしょに捜したからといって見つかるとも思えない。それに、自分でもひがみ根性だとは思うけれど、学校帰りの買い物に四万もつかえる彼女に、なんとなく反発を感じたのだ。 (四万……。わたしの一ヶ月分ぐらいの食費以上かも)  それでも、さらに欲しいものがあれば、彼女はねだれば甘いパパからまたおこづかいをもらえるのだ。なんでも言うことを聞いてくれるやさしいパパ。奈々には縁がないものだった。  その場にいた全員が騒然としているなか、我関せずといわんばかりに小説に目をもどした奈々を、美琴がきつい目でにらんできたが、無視してやった。 「ねえ、皆川さん、小林さんのお財布がないんだけれど、あなた知らない?」  驚いたことに美琴は近づいてきて、尋問するようにたずねた。かなり大きな声だったので、うしろの生徒たちが全員ふりむいた。みな興味津々という目で奈々と美琴を見ている。奈々は不快感に頬が熱くなった。 「知らないわよ、知るわけないじゃない。なんでわたしに訊くのよ?」  ムッとして奈々もかなり大きな声で言いかえしてやった。美琴の神経質そうな白い頬が一瞬、赤く燃えた。 「おかしいわよね、今までこのクラスでは、いいえ、霞ヶ丘では盗難なんてなかったのに」  奈々は怒りのあまり、手にもっていた本を美琴にぶつけてやりそうになった。奈々が来てからこういう問題が起こったと言っているのだ。まるで奈々を犯人と決めつけているようではないか。 「滝川さんは、わたしが財布を盗んだって言いたいわけ?」 「べ、別にそういうわけじゃないけれど、クラスメートが困っているんだから、皆川さんだって協力していっしょにさがしてくれてもいいんじゃない?」
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