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「……見るに耐えなかったよ。
なんて残酷なんだ、と思ったよ」
あまりの地獄絵図に泣いてしまった叔父に、主催の男は皿に取り分けられた猿の脳みそを笑顔で勧めた。
「さっきまで生きてたんだぞ。
すごい声で叫んでたんだ。
耳にその鳴き声がまだ張り付いた状態で、『召し上がれ』……って」
「……叔父ちゃん、よくそれを食べたね……」
「そうしないと会食が終わらなかったんだ。
泣きながら、食ったよ」
叔父の細かな描写は、口に残っていたカラスミの風味を一気に苦くした。
よくよく考えれば、カラスミも、猿も生命だ。
それを、「あれが美味いこれが美味い」と口にする人間はひどく残酷だと思ったと同時に、僕は人の業の深さにやるせない気持ちになった。
「いくら美味しくても、二度とそんなものは食べたくないね」
叔父の気持ちは僕と同じだと思った。
だけど、それは違っていた。
そうだな、と返事が返ってくると思っていた。
叔父が紹興酒のショットグラスを大きく傾けて、残っていたザラメを口腔内に入れた。
叔父の口から、ガリガリとザラメを噛み砕く音がする。
酔いが回った目は、瞼が半分落ちていて優しい叔父が何故か怖く見えた。
「……叔父ちゃん……?」
視線の先が定まらなかった叔父の目が、不意に、僕に焦点を合わせて言った。
「とても……美味かったんだ」
感情の読めない表情に、僕は言葉を失くした。
叔父の心を奪ったその食材は
未だに僕にとって未知な食材だ。
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