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僕の、叔父の話をします。
叔父は以前、某会社の重役を長年勤め、数年間その会社の香港支部の社長を務めていた。
僕たちは叔母に頭の上がらないのほほんとした叔父しか見たことがなかったけれど、社内では切れ者と評判な人だったらしい。
叔父が香港に住み始めて3回目の夏。
また叔父がお盆休みに日本に帰って来た。
親戚中が本家にあたる叔父の家に集まり、久しぶりに香港から帰国した叔父と再会し、楽しい宴が始まった。
叔父は、酒飲みの大人には大きなカラスミ、女性達には翡翠のアクセサリー、そして子供達には数々の雑貨を土産に買ってきてくれていた。
「大きくなったなぁ。お前、もう酒呑めるんじゃないか?」
「叔父ちゃん、何言ってるんだよ。僕まだ中3だよ。酒なんて呑めないよ」
それでも呑め、と言われるのを半分期待したが、叔父はそれ以上勧めてこなかった。
叔父は僕の隣で炙ったカラスミを肴に紹興酒にザラメをたっぷり入れて呑んでいた。
「それ、美味い?」
僕は叔父が箸でつまむカラスミを指差した。
少し焼き目の付いた濃いオレンジ色の切り身は、僕には未知の食品だ。叔父は、ニヤニヤしながら黙って僕の手のひらにカラスミを落とした。
叔父の視線を感じつつ一口囓ると、サクッとした表面が歯に当たり、魚卵独特の濃厚な磯の香りが鼻へ抜けた。
「……美味い!
叔父ちゃん、いつもこんな美味いの食ってるの!?」
驚く僕に、叔父は肯定も否定もせずにただニヤニヤと笑い続ける。
社会人の苦労など知る事もない僕は、毎日海外で美味いものを食べている叔父を心底羨ましく思った。
僕が初めて食べる珍味を、叔父は当たり前に食べている。そう思うと、聞いてみたいことがフッと頭に浮かんだ。
「叔父ちゃんが今まで食べた中で、一番豪華で美味かった料理って何?」
叔父は紹興酒のせいで充血した目を宙に漂わせた。
ショットグラスにある赤味を帯びた琥珀色の液体を一息に煽ると、叔父は言った。
「……猿だな」
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