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「猿!? 猿って食えるの!?」
どんな美食の話が飛び出すかと思えば、とんでもない単語が出てきた。
叔父のジョークかとも思ったが、何かを思い出しているような横顔からは冗談だとも思えなかった。
「叔父さんな、こう見えても偉いんだぞ。
シャチョーさんなんだぞ?
だから、向こうの関連会社の接待を受けることも度々あるんだ」
「そこで猿を食べたの?」
叔父の話によると、熊の手や、燕の巣、駱駝のコブなど、中華圏には八珍と呼ばれる珍しくとても貴重な食材がある。
叔父が食べたのはその内の一つ、『猿の脳みそ』だ。
叔父は、香港で最上級の接待を受けた。いわゆる『満漢全席』と呼ぶものだ。
ある程度接待が進んだ頃、叔父を接待した男は、「今日はとても貴重な物を用意した」と得意げに告げた。
そして店の料理人が運んで来たものを見たとき、叔父は目を疑った。
それは、ワゴンに頭部を固定された猿。
叔父は、興奮気味の猿と、主催の男のにこやかな笑顔がひどく不気味に感じた。
猿の乗せられたワゴンは席より少し遠い位置に置かれ、料理人は、おもむろに豪奢なヤカンを猿の頭上に掲げた。
「待て……! 何をする気だ……!!」
思わず出た日本語は、通用しなかった。
料理人は熱湯を猿の頭にかけていく。
猿は、あまりの熱さに自分の頭を両手で掻き毟る。
ギャッ、ギャッ、と叫ぶ猿の断末魔の叫びに、叔父は一瞬気が遠のいたそうだ。
熱湯が落とされなくなった頃には、弱々しくなった猿の頭は赤くただれ、毛は全て猿自身の手でむしり取られていた。
料理人が、ワゴンの下部分に衝立をした。
猿の頭部のみ出した状態で、後は全て視界から隠された状態になったのだ。
そして
唯一ワゴンから出た頭部を
料理人は小さな鋸で丁寧に
叔父の目の前で切り開いた。
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