〔十〕ブレーブスタジオ

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 これが何を意味するのか、亜矢には解らなかった。 「フン、思ったより物事を知っているじゃないか?」  安倍の口調がガラリと変わった。  彼とは長い時間を過ごしている亜矢だが、こんな安倍は知らない。 「いいえ、アンタが思った通り、あたしは何も知らないド素人よ」  御堂の口調も変わった。  静かなままだが怒りがにじみ出ている。 「初めから充分な知識があれば、大西さんは死なずに済んだし、そもそもこんな仕事はクビになっても受けなかった。でも受けた以上、ちゃんと〈影〉は祓ってあげる」 「お前に出来るのか?」  亜矢は耳を疑った、安倍は何を言っているのだろう、そのために御堂に依頼したのではないのか。 「できなきゃ身代わりになって、あたしが取り殺されるだけよ、アンタの目論見どーりにね。どっちにしろアンタは助かるんだから、素直に協力しなさい」  その言葉には有無を言わせない厳しさがあった。 「それじゃ改めて聞くけど、鳴滝さん、あなたホントに篠原さんがハネねられるのを見ていただけ?」  再び自分に問いが発せられ答えに詰まった。  今の亜矢の瞳には、闇に浮かぶ〈影〉しか映っていない。  暗い闇の中でなぜ〈影〉が視えるのかは解らない。  黒い闇に黒い〈影〉がクッキリ浮かんでいる。 「何が言いたいんです?」  声が少し震えてしまった。 「事故を起こしたのは、当時カガワエージェンシーで常務をしていた(よこ)(やま)()(いち)さんの運転するクルマで、原因は前方不注意とされた」  亜矢の視線が〈影〉から()れ、御堂の声がする闇に向いた。 〈影〉と違い彼女のシルエットは闇に紛れハッキリとしない。 「その後、横山さんはカガワを辞職した。非常にまじめな人みたいね、そして安倍さん、あなたとは反りが合わなかった」 「あぁ、そうだな。アイツは俺のやることに、一いちケチを付けて来やがった」 「当然でしょ。あなた、担当している女の子に何をしたのッ?」 「私生活でも色々面倒を見てやったんだ、そうだろ亜矢?」  背筋がゾクリとした。  安倍は何を考えているのだろう、二人の関係がバレたらお互い困った事になる。
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