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「で、俺が横山に何かしたって言うのか?」
亜矢の不安を余所に、安倍は話しを進めた。
「呪ったでしょ」
「寝言は寝てから言ったらどうだい、先生」
「横山さんは運転中、急に胸が痛くなったと言っている。それが原因で事故を起こしたけれど、その後の検査で異常はなし、事故以前も健康に問題は無かった」
「で、俺が呪いをかけたと。そう横山が言ったのか?」
「まさか。横山さんは、事故を起こした責任は自分にあるって今でも思ってる」
「そうだろうな。例え俺が呪ったとしても、事故の原因として立証するなんてムリだ」
「わかってる。でも、重要なのはそこじゃない。それだけなら篠原さんはハネられていない。横山さんも彼女が飛び出してきたって証言している。ねぇ鳴滝さん、どうして篠原さんは飛び出したの」
「わ、わたしは……何も……何もしてない……珠恵さんがいきなり……」
どうして、どうしてわたしが責められるのッ? この女は、わたしを助けてくれるんじゃなかったのッ?
亜矢の瞳に涙がにじんだ。
どう言い訳しようと、御堂は亜矢がしたことを知っている。
だからといって素直に自分のしたことを認めることは出来ない。
亜矢は安倍の居る方に振り向いた。姿は見えないが、今頼れるのは安倍だけだ。
「突き飛ばしたんだよ、亜矢が」
ヘラヘラと安部が答えた。
亜矢は絶句した。淡い希望は一瞬でかき消された。
「それを指示したのはあなたでしょう?」
「ヒドイな先生、クライアントを犯罪者呼ばわりか。俺はね、亜矢にこう言っただけだ、『事務所の裏側の横断歩道に珠恵を連れて行けばいい、後はわかるよね』ってね」
あの日、安倍に言われた言葉が脳裏に蘇った。
前回のイベントの集客も悪かったね。
事務所もこのままだと見切りをつけるだろうな。
もっと露出を増やせばいいけど、ウチの事務所にも仕事をしたい娘は沢山いるからね。
何とかしてあげたいんだよ。
力になりたいんだ。
亜矢ちゃんには、どれだけの覚悟がある?
気付けば安倍とベッドの中にいた。
正直、気持ち悪くて吐きそうだった。
それでも耐えた。
アイドルになるため。
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