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それもただのアイドルではない。
霊感アイドルも踏み台に過ぎない。
トップアイドル……
常にスポットライトを浴び、全国ネットのテレビに出演し、ドラマ、映画、コンサート、夢は尽きない。
アイドルと呼ばれる時期が過ぎれば、今度は女優、ミュージシャンとして海外でも活躍し続ける。
それが鳴滝亜矢だ。
そのためなら、どんなことでも耐えられる。
気持ちの悪いオヤジに抱かれる事など何でもない。
望まれればもっと恥ずかしいことでも、気持ち悪いことでもする。
他の男でも、女にだって抱かれる。
誰かを傷つける事だってためらわない。
だから安倍に珠恵の後釜になりたくないかと言われたとき、何の迷いも無かった。
あの横断歩道に立ったときは、さすがに脚が震えた。
それでも亜矢は横山のクルマが来たとき、珠恵の背中を思い切り突き飛ばした。
次の瞬間、珠恵がこちらを振り向くのがスローモーションのように見えた。
何が起こったが理解できずにいる表情は、今でも夢に出てうなされる。
不思議なのは、ハネられて血だらけになった姿ではなく、直前の珠恵の表情が亜矢を苦しめてることだ。
意識不明と言っていたが、人殺しになっていたかも知れない。
それでも構わない、どんなに手を汚しても構わない。
ただし、それが公になることは許されない。
アイドル鳴滝亜矢は一点の汚れも無い存在だ。
「仮に、俺が呪いをかけたとしても、この国の法じゃ裁けないぜ」
裁かれるのは、珠恵を突き飛ばした亜矢だけさ……
他人事のような安倍の言葉が、亜矢の心の闇に響いた。
気付くと亜矢は訳のわからない金切り声を上げ、安倍の声のする方に突進していた。
しかし、揉み合ううちに安倍に髪を鷲づかみにされ、テーブルに叩き付けられた。
その瞬間、部屋に明かりが灯った。
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