〔十一〕プロダクションブレーブ

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 それとなくカガワに探りを入れたが、親からの援助、後援者や熱狂的なファンなどの情報はなかった。  そうする鍵となるのは、あのセミダブルのベッドだ。  独り暮らしのワンルームでセミダブルは必要ない、いくら広いと言っても八畳程度の部屋だ。誰かと一緒に寝るために必要だったのだ。  そうすると頻繁に亜矢と合っている人物が疑わしく、それは安部しか居なかった。それにこの男なら特技を使い、給料以上の金銭を会社から都合できる。  と、ここまでは自力で推理したのだが、呪術については素人なので、また鬼多見に頼らなければならなかった。  今度は事件の全容を伝える必要があったが、その結果、自分の予想が大方間違っていない確信が持てた。  ただ、安倍が自分を身代わりにするつもりだと気付かされた時は、恐怖よりも怒りを覚えた。  ギャラが支払われなくなる状況で、更に鬼多見を使うことに渋い顔をしていた好恵だが、刹那の生命(いのち)に関わることだと知った途端、彼に代わってもらえと言い出した。  もともと最後までやり遂げるつもりだったが、意外なことに今度は早紀が好恵を説得してくれた。  「その汚い手を放しなさい」 「うるせぇな、こいつをどうしようが俺の勝手……」  言い終わる前に、早紀が安部の腕を捻り上げた。  安部が耳障りな悲鳴を上げる。  彼女はただの敏腕マネージャーではない、少林寺拳法四段のボディーガードでもあるのだ。 「貴方はマネージャーに向いていません、出所したら転職したほうがいい」 「な、何を言って……」 「所属タレントに暴力を振るったのを、ここに居る全員が目撃しています」 「あれは、アイツが……」 「あら、あたしたちが見たのは、あんたが鳴滝さんの頭をいきなりテーブルに叩き付ける姿だけよ。それはバッチリカメラにも映ってるわ、そうでしょ竹田さん?」  竹田が慌ててカメラのチェックをする。 「あ……はい、撮れてるっス! でも、どうして……」 「それを篠原珠恵も望んだから」  安部が恨めしげな眼差しで睨む。 「てめぇ、ハメやがったな!」 「自業自得でしょ」
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