〔十二〕事務所前

3/4
前へ
/67ページ
次へ
「眼の前で入院するほどの怪我をしているのに?  竹田さんは、そんな人ではないでしょう。  あなたは自分自身に禍が起こるのも覚悟で、満留を紹介したんでしょう。  何故なら、呪術に頼っているあなたにとって、珠恵さんに起こったことは人事ではなかったからです」 「全て君の妄想だ、何一つ証拠が無い……」  リョータは視線を刹那から逸らし、吐き捨てるように言った。しかし、その声は尻すぼみになって消えていった。 「その通りです。でも、そんな事はどうでもいい。  あたしは、あなたにも『人を呪わば穴二つ』だってことを知って欲しかったんです」 「だから、オレはッ」  再び刹那の方に顔を向ける。 「関係ないのなら、どうして彼女は竹田さんが帰った後もここを(うかが)っているのかしら?」 「え?」 「いい加減、かくれんぼはやめたら。あんたはとっくに『鬼』なんだから」 「大した千里眼ね、術で気配を消していたのに」  気がつくと少し離れたところに芦屋満留が腕を組んで立っていた。 「いつの間に……」  リョータが呆然とする。  実を言うと刹那は満留の存在に完全に気付いていたわけではない。  (のろ)いが破られると、その(のろ)いは大抵かけた術者に返って来る。  ゆえに呪いが解かれると知れば、満留が現れる可能性が高い。  と、鬼多見から教えられていたので、白檀に似た香りを嗅いだとき確信した。  もちろん、それを満留に教えてやるつもりはない。 「自分で思っているほど、あんたの『おまじない』は大したことないってだけよ」 「余りいい気にならない方が身のためよ、御堂刹那。私を怒らせると恐いから」  冷たい眼差しを刹那に向ける。それはこの言葉が本気であることを物語っていた。 「脅しのつもり?」  刹那は怒りのこもった瞳で満留を見返した。 「本当に気が強い娘ね、いずれ後悔するわよ」 「その言葉、そっくり返すわ」
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

105人が本棚に入れています
本棚に追加