第5章

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 塗り直されたばかりという壁の色はごく淡い黄色で、天井や暖炉の周りなどに施された漆喰の装飾はこれも灰色がかった薄い緑だった。  明るく、落ち着いた品のいい配色である。春や今のように秋のやわらかな日差しが注ぐ季節にはことさらこの壁の色が映えるだろう。  そして多分、部屋をより明るくして楽譜を読み易くする狙いもあるに違いない、とアントワは推測した。  そっと部屋を見回すと、窓は南側に大きなものが一つ、そして西側にも少し小さい窓が一つあった。調度品はまず長椅子が一つ、一人掛けの椅子が二つ部屋の東よりにある暖炉の傍に置かれていた。そのすぐ向こうに南を向いて置かれたピアノがあり、更にその奥の突き当たりの壁に書斎机や本棚などがあった。  家具は…意匠はそれほど華美ではないが全て質のいいマホガニー製で、よく磨かれ手入れが行き届いているように見えた。
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