第1章

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 ルイーズ・ド・ボーモン夫人はその晩も、オペラ座の桟敷席からごく優雅な手つきでオペラグラスを上げていた。  彼女がオペラグラスを介して見つめているのは舞台ではない。客席に集う人々を見ているのだ。こういった夜の社交場では、概してオペラグラスとは退屈しのぎに他人を覗き見るために存在する小道具である。そしてボーモン夫人の陣取る桟敷席は舞台から見て中央よりやや下手側になる絶好の位置にあった。しかしそこから見える人々の顔触れは目新しさもなく…どこぞの伯爵夫人はまた愛人を取り換えたという噂が本当だということだけが確認できたのだった。  退屈を持て余し、ボーモン夫人は普段は見ることのないような末席の様子までをもオペラグラス越しに覗き見る羽目になった。その辺りに落ち着きのない様子で座る人々は、根本的に夫人とは縁のない…多少金回りのよくなった商人たち、といった風貌の者ばかりのはずである。  しかし彼女はその中にあるものを見つけた。  最下階の上手側、端も端の桟敷席に三人連れと思しき人々がいて、小太りの中年の男と若い娘、これは親子だろう。  その横にもう一人、若い男がいた。
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