第1章

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 彼女が瞠目したのはその男の容貌だった。  歳は二十歳を過ぎたあたりだろうか、蜂蜜色のゆるく波打つ髪、白い肌。  遠目に見ても男の美しさは際立っていた。  まるで見る者の瞳の奥を射抜くがごとく、彼の存在そのものが光を投げかけてくるのだ。  更に容貌だけでなく、身なりも決して華美ではないが最も質のいい生地と仕立てで誂えたものであるのが一目でわかり、趣味もすこぶる良い。  とびきりの容貌と品格を持った男を前に、言うまでなく隣に座っている娘は舞い上がっているようで、しきりに彼に話しかけている。極端に容貌が劣るわけでもなく、人も悪くなさそうだが、それ以外に取り得はなさそうなその娘に向かって、男は控えめな品のいい笑顔を浮かべていた。  だが、娘との会話に決して熱心とはいえない様子を見て取ったボーモン夫人は、人知れずほくそ笑んだ。
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