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「『桜色にそめし衣をぬぎかへて 山ほととぎす今日よりぞ待つ』……か。
夏を呼び込むのにふさわしい歌だよね」
今年は常になく夏の訪れが遅かった。
春のぬるさを残したまま、梅も桜も花を散らしてしまったというのに、菖蒲の花は開かない。
だから私は、夏をことほぐ歌を歌って、夏を呼んだ。
時節に適うように時を廻していくこともまた、わたくしの一族に課された使命だから。
歌詠みの一族。
わたくしの一族は、和歌を詠むことで徒人の身では起こしえない不思議を起こす。
代々その力を宿してきたわたくしの一族は、その力で高貴な方々をお守りしてきた。
わたくし自身もまた、今をときめく中宮、彰子様にお仕えしている。
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