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熱いとも冷たいとも感じる唇は、済ませる事だけ済ませると余計な動きは一切見せずに離れていった。
「だからね、俺の和泉。
早く俺のものになりなよ。
今後もその力を振るいたいなら……ね」
その答えにわたくしは、いつも通り平手を繰り出した。
あえてそれを片手で受け止めた彼は、逆にわたくしを引き寄せて懐深く抱きしめる。
フワリと、高価な伽羅の香りが鼻をついた。
「ねぇ、俺の和泉。
俺の名前を呼んで?」
人ならざる身であるこの若者が、わたくしの何を気に入って通ってくるのか、わたくしはまったく分からない。
だけど彼はこうして時折ふらりと現れては、わたくしに己の力を吹き込んで帰っていく。
彼の唇を介して力を注がれたわたくしの体は、常に付きまとう倦怠感が抜けて軽くなっていた。
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