5人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺の名前を呼んでくれないなら、俺に和泉の名前を頂戴?」
わたくしの問いに何一つ答えることなく、彼は自分の要求を突き付けてくる。
涼やかなのに甘美な声が、わたくしの意識をクラクラと揺らす。
彼が欲している名前は、宮中で使われている『和泉』でも『式部』でもない。
わたくしが生まれた時にふた親が授けてくれた、真の名前。
魂さえ縛る、生みの親と己と、生涯添うと誓った相手にだけしか知らされない名前。
その名を欲する意味を分かっていて、彼は毎度わたくしにその要求を突き付ける。
妖に真名を教えるなど愚の骨頂。
分かっているのに、この甘美な声はわたくしの心を揺らす。
己の名をこの声が呼んだ時に、どれほど甘美な響きが生まれるのだろうかと。
最初のコメントを投稿しよう!