半天(なかぞら)にひとり有明の月を見て

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「俺の名前を呼んでくれないなら、俺に和泉の名前を頂戴?」  わたくしの問いに何一つ答えることなく、彼は自分の要求を突き付けてくる。  涼やかなのに甘美な声が、わたくしの意識をクラクラと揺らす。  彼が欲している名前は、宮中で使われている『和泉』でも『式部』でもない。  わたくしが生まれた時にふた親が授けてくれた、真の名前。  魂さえ縛る、生みの親と己と、生涯添うと誓った相手にだけしか知らされない名前。  その名を欲する意味を分かっていて、彼は毎度わたくしにその要求を突き付ける。  妖に真名を教えるなど愚の骨頂。  分かっているのに、この甘美な声はわたくしの心を揺らす。  己の名をこの声が呼んだ時に、どれほど甘美な響きが生まれるのだろうかと。
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