半天(なかぞら)にひとり有明の月を見て

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「……貴方にわたくしはあげないわ」  その誘惑を振り切って、今日もわたくしは彼の瞳を睨みつける。  ヒトに化けた綺麗な瞳が、またいつものようにキュッと喜悦に絞られた。 「離れなさい、天狐。  さもなくば、歌うわよ」 「おや、それは困るな。  和泉の歌は、俺の心まで縛ってしまうから」  冗談なのか本気なのか分からない言葉を吐きながら、彼はわたくしを解放する。  その指先がわたくしの黒髪をすくって口づけを落とすのもいつものこと。 「動くはずのないものを動かし、縛りつけて、離さない。  『浮かれ女』の和泉。  罪な御方」  フワリと、彼の衣が風に舞う。  色の薄い衣が軽やかに舞う様は、まるで天女の羽衣のようで。 「諦めないよ。俺の手に落ちてくれるまで」
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