12人が本棚に入れています
本棚に追加
人間の体に、カエルの頭がついている。
「おはようの挨拶♪」
そう言うとその女は、俺に抱きつき、ベロリと顔を舐めた。
「うひゃあ!」
俺がたまらず叫ぶと、女は嬉しそうに笑った。
「もう、そんなに喜んじゃって。すぐご飯にするねえ。」
そう言うと、またパタパタとスリッパを鳴らして、台所に向かった。
う、嘘だろう?あれが、かわいい嫁?
騙された!あの小悪魔め!
俺は信じられない面持ちで、カエル女の用意した朝飯を食いながら絶望した。
いってらっしゃいと、カエル女に見送られて、俺は電車に乗った。
これなら、元の世界のほうが良かった。確かに幸せな家庭は望んだ。
だけど、嫁がカエル女だなんて聞いてない!
会社に着くと、和也が俺のデスクに近づいてきた。
「よう!この幸せ者!新婚はいいなあ!」
そう肘で小突いてきた。
こちらの世界でも、友人は和也なんだ。
「良いわけないだろう。あんなカエル女。」
俺は初めて和也に殺気を覚えた。
「何言ってんだよ、お前!あんな良い女を嫁にもらって!贅沢言うんじゃねえよ!」
和也は真面目な顔で俺に抗議した。
わけがわからない。あれがいい女だって?
「ああ、いいなあ。お前はイケメンだからなあ。俺もこんな顔じゃなかったらなあ。
お前、高校生の頃からモテモテだったもんなあ!羨ましいぜ。」
こ、こいつ!嫌味かよ!
ぶん殴ろうと拳を固めたところで、和也が俺の肩をちょいちょいと小突いてきた。
「おっ!わが社一の美人のご出社だ。ちょっと挨拶してくるわ。」
そう言うと、和也は、その美人と言った女に近づいて行った。
カエル女!
その女も、俺の嫁と思われる女のように、ひらめ顔の鼻のつぶれた女だった。
「おっはよーございまーす。今日も綺麗っすねえ!」
和也がカエル女にチヤホヤしている。カエル女は和也を一瞥しただけで無視した。
そのかわりに俺を見つけると、色気たっぷりの目でこちらを見て微笑んだ。
うわっ。
どうやら、こちらの世界では美的感覚が全く逆らしい。
イケメンの和也は、こちらでは不細工。あちらで不細工だった俺は、こちらではイケメンということになる。
昼の休憩の社食で流されているテレビに映る女優と見られる女達もすべてカエル顔。
なんなんだ、この世界。
俺はうんざりした。
最初のコメントを投稿しよう!