記憶銀行

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目が覚めると、私は記憶を失っていました。『目が覚めると』とは言っても、眠っていたわけではないらしく、どこか小奇麗な施設のロビーで立ち尽くしていたようです。 何故こんなところで記憶を失っているのでしょう。見当もつきません。 「お客様、記憶はなくなりましたか?」 カウンターらしき机を挟んで、ニコニコとほほ笑む男性が話しかけてきました。彼は今、とても大事なことを二つ言った気がします。『お客様』、私はこの施設の利用者なのでしょうか。 そして、もっと重要なのが『記憶はなくなりましたか?』という言葉です。何故私が記憶喪失になったことを知っているのでしょう。尋ねずにはいられません。 「つかぬ事をお伺いしますが、ここはどこですか? 私は誰なのでしょう?」 爽やかすぎて逆に怪しいその人は、より一層とにこにこしてから、頭を小さくぺこりと下げました。 「申し訳ございません。ご説明が遅れてしまったことをここに謝罪させていただきます」 その笑顔からは、謝罪の心などスズメの涙ほども感じられませんでした。まったく、私が短気な人ならば、スズメのようにチュンチュン喚き散らしていたことでしょう。 「この施設は『キオクギンコウ』でございます。お客様は当行に、記憶をお預けになったのです」 「『キオクギンコウ』? 聞いたこともありません」 私は腕を組みました。 キオクギンコウ……、記憶銀行……、記憶の銀行? 記憶のやり取りができる銀行なのでしょうか。もしもそうなら、科学技術はいつのまにそこまで進歩したのでしょう。 「そうでしょう。記憶を失ったあなたが知るはずもありません。当行は今から五年ほど前に創立された、全く新しい銀行なのです」
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