記憶銀行

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私が雨の日の捨て猫のようにプルプルと震えているのを見かねてか、銀行マンさんは再び笑いかけます。 「すみませんね。これはお客様とのご契約でして、記憶を失う前のお客様に関することは、何も教えてはいけないのです」 「そうなんですか……いろいろと複雑なんですね」 「いえ、当行で交わされる契約はいつだって単純明快。お客様は『今までのお客様』をすべてお預けになられたにすぎません」 「今までの私をすべて……? ちょっと待ってください! 私の家はどうなっているのですか?」 「ご安心ください。要介護のお爺さまからペットのわんちゃんに至るまで、当行がすべてお預かりしております」 安心できるわけがありません! 名前も知らないお爺さまやわんちゃんは良いとしても、家まで預かられてしまっては困ります! 私が野垂れ死ぬまでの明確なビジョンが丸見えです! レントゲン写真かっていうくらい透けて見えます! 「家がなくては死んでしまいます!」 「その点もご心配には及びません。当行にお預けになった記憶の利息として、新しい住まいと毎月の生活費を支給いたします」 銀行マンさんは、おかしな事を言いました。利息とは言いますが、そもそもなぜ利息などが付くのでしょう。私が記憶を預けることで、なにか得をする事でもあるのでしょうか。正直、とても怪しいです。 疑いの目を尖りに尖らせて銀行マンさんを見つめていると、それに気付いたらしく、両腕を大きく広げて言いました。 「お預けになられた記憶は、ビッグデータとして収集され、様々な分野で利用されます。それゆえ、その対価として利息が付くのです」 それを聞いて、私は胸を撫で下ろしました。何だかよくわかりませんが、少なくとも怪しいお金を頂いているわけではなさそうです。 ビッグデータ、対価……何となくそれっぽいですし、心配することは何もありませんね! いえ、心配すべき事はまだ残っています。これが何処にあるのかわからないのでは、私は結局野垂れ死んでしまうでしょう。 「それで、私の新しい家は何処にあるのでしょう?」 「はい、今からご案内致します。こちらへどうぞ」 銀行マンさんは私を外に連れ出しました。
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