植物も自殺する

Changin' my life

「金で買えないものが重要になるのは金で買えるものが充足してからだ。お金で買えないものを持っていてもお金がなければ生きられない。その逆もまた然りだけどな」

　優先順位の問題であってそれが必ずしも価値の優劣にはならないということか。ダイヤモンドよりも米のほうが優先度は高いがダイヤモンドのほうが価値は高いことを鑑みれば頷ける。

「まぁどちらも大切なことに変わりはないし、どちらの価値が上かを決めなければならない状況はこないですね」
と僕が言うと先生は、お前から振ってきた話だよな、と呆れていた。こういった話はその人の価値観を測る程度の意味合いしかないのかもしれない。

　「まぁ金で買えるもののほうが金で買えないものよりも多い。日常においては命の危機に脅かされることもないし、金の有難みを感じる機会のほうが多いだろう」

「危機に直面したときのみ、お金を上回るものが現れるということですか。砂漠においての水、みたいな」

「なんだかベタだしcase by case とか身も蓋もなくなっちゃったな」

　そう言って苦笑いすると黒いスーツから覗く茶色い皮ベルトの時計に目をやり、まだ休み時間があることを確認していた。次の時間は他クラスでの授業があるようだ。
　黛先生は生徒とのこうした雑談をいつもしているせいか授業に遅れることは珍しくない。そのことを先生は、授業が短くなる分には生徒も喜ぶだろう、と言っていた。