小説家は愛を囁く

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◇…◆…◇  家に戻ると綺麗になった部屋へ百武を招く。 「先生の部屋……」 「本しかないでしょ」 「あ、これ、鷲庵先生の本っ」  目がキラキラしている。自分の本ではまだこんな顔をしてもらったことはない。 「なに、まさかファンとか?」 「はい」  これは、結構ダメージが大きい。  好きな子に他の作家のファンだといわれることがこんなに応えるとは思わなかった。 「乃木先生?」  ソファーに座りいじける乃木に、どうしたんだと隣に腰を下ろす。 「百武君は俺と鷲庵先生とどっちが好きなの?」 「え、鷲庵先生ですけど」  即答されて、更に落ち込む。 「どうせ俺なんて」 「はぁ、乃木先生って情けねぇんですね。俺を振り向かせる作品を書いてやろうとか、思ってはくれないんですか?」  期待しているんですけどね、と、真っ直ぐに見つめられて。 「本が絡むと、君は凄い事を言ってくれるんだな」 「何度も言ってますけど、先生の書く話は好きですから」 「俺に対する気持ちも、そうであって欲しいところだね」  ソファーへと押し倒して口づけをしようとすれば、それを百武の掌に邪魔される。 「本当、隙がねぇです」 「そりゃ、好きな子に対しては肉食ですから」 「俺は食われたかねぇんで」  そういうと身体を押しのけられてしまう。 「手をだすつもりなら帰りますけど?」  そう言われて焦る。  本当に百武は帰ってしまうだろう。
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