担当は愛に戸惑う

2/3
前へ
/26ページ
次へ
「乃木先生の気持ちが、困るんです」  乃木に告白されたこと。お礼という名目でキスを受け入れてしまった事を話す。 「俺は先生みたく顔もよくないし愛想も無い、つまらねぇ男なんです。惚れるとか、おかしくねぇですか?」 「百武君がそんなふうに自分の事を言ってしまったら、そんな君に惚れた乃木さんの気持ちはどうなるの?」 「先生の、気持ちですか」 「そうだよ。君は真剣に向き合ったの?」  どうせ考えようともしなかったのでしょうと言われてしまう。  そう、自分は逃げるばかりで考えようとしなかった。だが、自分の事は自分が良く知っているから疑ってしまうのだ。 「百武さんは自分に自信がないんだね」  そう真野に言われて頷く。 「そうか。でもな、今はお前の見た目や性格がどうこうっていうのはおいとけ。素直な気持ちでここに聞いてみるんだ」  信崎が胸を指でトンと叩く。 「素直な気持ちで……」  一人の男としては苦手だと、今でもそう思っているのかどうかを。 「実はね、乃木さんに頼まれたんだ。百武君が喫茶店の前を通ったら声を掛けてやってって」 「そう、だったのですか」  逃げるように部屋を出て行ったといのに、しかも傷つけてしまったかもしれないのに気遣うなんて、そんな優しさはズルい。  こんなに自分を想ってくれる相手など居ないだろう。 「……お酒、頂いてよいでしょうか?」 「では、百武さん、これをどうぞ」  甘党なんですよねと、大池が大量のチョコレートを掌へと落とす。 「チョコレートにはこのウィスキーが合うんですよ」 「そうなんですよね。大池さんから勧められたんですけど、すごく美味しいんです!」 「では頂きます」  甘いチョコレートと胸が焼ける程に強い酒。  一気に熱が上がり酔いが回る。  熱い。  これは酒のせいなのか、それとも乃木のせいなのか。  テーブルに置いたチョコレートに手を伸ばし口の中へと入れ、再び酒を煽った。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

288人が本棚に入れています
本棚に追加