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「乃木先生の気持ちが、困るんです」
乃木に告白されたこと。お礼という名目でキスを受け入れてしまった事を話す。
「俺は先生みたく顔もよくないし愛想も無い、つまらねぇ男なんです。惚れるとか、おかしくねぇですか?」
「百武君がそんなふうに自分の事を言ってしまったら、そんな君に惚れた乃木さんの気持ちはどうなるの?」
「先生の、気持ちですか」
「そうだよ。君は真剣に向き合ったの?」
どうせ考えようともしなかったのでしょうと言われてしまう。
そう、自分は逃げるばかりで考えようとしなかった。だが、自分の事は自分が良く知っているから疑ってしまうのだ。
「百武さんは自分に自信がないんだね」
そう真野に言われて頷く。
「そうか。でもな、今はお前の見た目や性格がどうこうっていうのはおいとけ。素直な気持ちでここに聞いてみるんだ」
信崎が胸を指でトンと叩く。
「素直な気持ちで……」
一人の男としては苦手だと、今でもそう思っているのかどうかを。
「実はね、乃木さんに頼まれたんだ。百武君が喫茶店の前を通ったら声を掛けてやってって」
「そう、だったのですか」
逃げるように部屋を出て行ったといのに、しかも傷つけてしまったかもしれないのに気遣うなんて、そんな優しさはズルい。
こんなに自分を想ってくれる相手など居ないだろう。
「……お酒、頂いてよいでしょうか?」
「では、百武さん、これをどうぞ」
甘党なんですよねと、大池が大量のチョコレートを掌へと落とす。
「チョコレートにはこのウィスキーが合うんですよ」
「そうなんですよね。大池さんから勧められたんですけど、すごく美味しいんです!」
「では頂きます」
甘いチョコレートと胸が焼ける程に強い酒。
一気に熱が上がり酔いが回る。
熱い。
これは酒のせいなのか、それとも乃木のせいなのか。
テーブルに置いたチョコレートに手を伸ばし口の中へと入れ、再び酒を煽った。
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