壊れゆく日常

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「はい、どうぞ」 ベッドに横になったままでそう答えると、ドアノブを回してそっと部屋の中に入ってくるママの姿が見えた。 優しく微笑んでいるママの顔を見るだけで、私も笑顔になってしまう。 「あらあら、まだ寝てないのね?あんな事があって、不安なのかしら?」 ドアを閉め、ベッドに近付いて、そっと腰を下ろす。 「うん。ちょっとね、考え事をしていたの。でも……偶然が重なっただけの、ただの事故だったんだよね」 ママの目を見詰めてそう話すと、私の頭を撫でてくれた。 おでこから頭の後ろにかけて、髪を整えてくれるようなこの仕草は、気持ちよくて安心する。 どんな不安も消えて行くような、そんな温もりを感じるよ。 「美子ちゃんはえらいのね。しっかりと考えて、受け止めようとしてるのね。だけど、無理はしちゃダメよ?素直になれば良いのよ。泣きなかったら泣いても良いの。その時はママが抱き締めてあげるわ」 その声が、言葉が、私の心を温かくしてくれる。 「うん。でも大丈夫だよ。美子ちゃんはもう11歳だもん。来年は六年生だしね」 「フフッ、だったらいつまでも自分の事を『美子ちゃん』って呼ぶのをやめないとね」
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