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全身を容赦なく襲う風に妨害されながらも、なんとか体の向きを反転させる。それにより顔面に物凄い風圧がかかり、目を開けることも困難な状況に陥った。
あまりの風圧に耐え切れず、何か防ぐことのできるものがないかと思考を巡らせた瞬間。
右手に強く握りしめている本の感覚に気づく。
俺は即座に本を顔の目の前に持ってくることで、幾らか風圧を弱めることに成功した。
だが、俺はもう一つの事実に気づいてしまった。――――雨宮真理奈がいないことに。
俺は咄嗟に周りを確認する。しかし、何処にも見当たらない。叫び声を上げたところで風の音にかき消されてしまうだろう。
だが、俺は風に打たれながらも辺りに視線を飛ばす。すると、何処からか風の音に負けないくらいの大きな声が聞こえて来た。
「ここだああぁぁ!!!!!」
下から鮮明に聞こえた女性とは思えない大きな声。下に目を向けると、距離はだいぶ離れているが雨宮真理奈が確かにいた。
彼女は座布団一枚ほどの大きさしかない雲のようなフワフワした何かに、胡坐をかきながら座っていた。
刹那。その何かは突如として四方に大きく広がる。そして俺はその物体めがけて突っ込んでいく。
雲のような何かに衝突する瞬間。俺は初めて死を覚悟した。
流石に感情というものが良くわからない俺でも、死を目前にすると生への感情が浮き出てくるらしい。
しかし、予想とは裏腹に一切の衝撃もなく、まるで新品の羽毛布団に飛び込んだ時のような気持ちの良い感触が全身を包んだ。
落下のスピードにより体はフワフワな物体の中に沈んでいき、やがて減速し止まる。
その後フワフワな物体に全身が下から押され、先ほ
ど雨宮真理奈が座っていた場所まで上昇していく。
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