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「ごめん――ごめんっ。ごめんっ……! ――――お願いだ。死んでくれ…………」
過去の記憶が走馬灯のように頭の中を流れる。
これから俺が行おうとしていることを考えると全身が震え、今にも目の前の現実から逃げてしまいそうになる。
本当にこれでいいのか? と。何度自身に同じ問いかけをしただろうか。結局、答えなんて出るはずもなかった。
そう、答えなんて存在しない。何が正しいかなんて誰にもわからないのだ――
手の震えにより、カタカタと音をたてている武器を両手でしっかりと握り締める。彼女は何も喋らない。
いや、喋ることができないのだ。彼女は今どんな表情で俺を見ているのだろうか。
俺はそんな彼女の顔を見ることさえできない卑怯者。
何故こんな事になってしまったんだ――――。あんなにも楽しい日々をくれた彼女。
そして愛を与えてくれた彼女を俺は――――――殺す。
彼女との記憶を断ち切るかのように、鉛みたいに重くなった足を動かし、走り出す。
たかが十数歩の距離がとてつもなく遠くに感じら
れる。それでも足を止めることはしなかった。
一度足を止めてしまったら、もう動くことが出来ないと確信していたからだ。
様々な重みを背負いながら、彼女の穢れのない綺麗な体に武器を向けた。
悲しみの篭った剣先が彼女の心臓を貫く瞬間。彼女の表情が垣間見える。
彼女は――――――――――どうしようもないくらい綺麗な微笑みを浮かべていた。
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