君の瞳は僕を映さない

4/9
前へ
/9ページ
次へ
 僕は抱き寄せた君の真っ白な首筋にキスをした。  「あ……ん」と小さな声を洩らして、君は僕の背中に腕をまわす。  二人で並んで腰掛けるには少し小さいソファーがギシリと悲鳴をあげた。 「もう。テレビが見れないよ、ケンタ……」  僕の背中を、君の小さな手が優しく叩く。  そうか。  そういえば、君が結婚を約束した彼の名前はケンタだったね。  つい、君を抱く腕に力がこもる。 「もう! 痛いよ、ケン…………あっ!」  抱きしめる僕の両腕の中で、君の体がぴくりと強張るのがわかった。 「気にしなくていいよ」  抱きしめた君の耳元で、僕はそっと囁く。  君が僕を誰と呼び間違えようとかまわない。  君が僕を誰の代わりにしようとかまわない。  僕が君のそばにいられるのなら、それでいい。 「ごめんね、ごめんね」  嗚咽まじりに君は何度も何度も謝る。 「大丈夫だよ。気にしなくてもいいから」  僕はそう言って、君の髪を撫でた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加