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「ねぇ、かんちゃん。あたしのどこが好きなの?」
バスルームに向かおうと立ち上がった僕に、先にシャワーを浴びた君が、濡れた髪をタオルで拭きながら訊いた。
どこが好き?
そんなのわかんないよ。
ただ、君と一緒にいたいだけなんだから。
君と一緒にいられることが嬉しいだけなんだ。
胸が苦しくなったり、辛いときもあるけど、それでも一緒にいたい……それだけ。
「ぜんぶ」
バスルームのドアを開けながら、君のほうに振り返り、そう言った。
「ケンタはね、あたしの目が好きなんだって」
君は、ケンタくんが好きだという、どんぐりみたいにまんまるな目をテレビに向けたまま、言った。
「ふぅん」
そう相槌をうって、君の言葉を適当に聞き流したふりをした。
君はいつも世間話のようにして、ケンタくんの話をする。
君を好きになる前ならば普通に聞くことのできた、何でもない話。
だけど……。
だけど、今は違う。
バスルームのドアを閉めて、僕は大きく息を吐いた。
この溜め息と一緒に、僕の胸の中に溜まった醜い嫉妬心も吐き出してしまいたい。
苛つく気持ちを抑えようと、熱いシャワーを頭から浴びた。
バスルームから出たら、また君に笑顔を向けることができる。
笑顔でケンタくんの話を聞くことができる。
僕はそうやって自分に言い聞かせると、君が「これ、ケンタが使ってるのと同じなんだよ」と、買ってきたシャンプーとボディーソープを使って体中の汚れを落とし、僕の匂いと一緒に、薄汚い感情を消した。
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