君の瞳は僕を映さない

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 シャワーを浴び終えて脱衣場で体を拭いていると、君がケラケラと笑う声が聞こえた。  君は本当によく笑う。 「この人たち、面白いよね。わたし、このコンビ、めちゃくちゃ好き……っはははっ」  言い終えたか言い終えなかったのかの微妙なタイミングで、君はまた大笑いする。  ああ。今、君が見ている番組には、君が最近ハマっているお笑いコンビが出てるのか。  この間も、そのコンビのDVDを借りてきて二人で観たよね。  僕はあまり笑えなかったけど、隣でお腹を抱えて大笑いしている君を見ていると幸せな気持ちになったことを思い出した。 「ええっ! どうして? この二人、めちゃくちゃ面白いじゃん!」  たぶん、笑いとれるのもあと数ヶ月くらいだよ? 僕はもうこのコンビのネタには飽きてきたし。  バスタオルで髪を拭きながら、僕は声に出さずに君の言葉に応える。 「もう! ホント、ケンタとは、笑いの趣味が合わないよねー」  あはは、と笑いながら、君は言った。  どうやら、ケンタくんとの電話の最中らしい。  今はあんまり物音は立てないほうがいいだろうな──そんなことを思いながら、僕は手に取ったヘアドライヤーを棚に戻して、またゴシゴシとタオルで髪を拭いた。
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