君の瞳は僕を映さない

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 君の話し声が聞こえなくなるまでの時間を、バスルームの脱衣場で過ごした僕の体はすっかり冷えてしまっていた。  君は今まで独り占めにしていたソファーに僕が腰掛けられるくらいのスペースをあけて、僕を手招きをした。  それに応えて隣に座ると「冷たくなっちゃったね」と言って、君は頬を僕の胸のあたりにピタリとくっつける。  僕と同じ香りがする君の髪が肌に当たって少しくすぐったかったけど、僕はそのまま、君の髪を撫でた。 「かんちゃんは、こうして優しくしてくれるから好き」  君は僕の背中に腕を回して、胸に頬をすりつけながら言った。  その言葉が、べつに嘘だってかまいやしない。  僕は君の髪を撫でながら、君の額にそっと唇を当てた。  どうして君を好きになってしまったんだろう。  君を抱きしめるたびに、君をいとおしく思うたびに、ここ数日の僕の頭の中は、そんな今さら考えたって仕方のないことでいっぱいになる。  二股だとか浮気だとか、そういった今まで自分が否定してきたことを、大好きな君にさせている罪悪感と、おそらくはハッピーエンドを迎えることのない恋愛の関係を選択してしまった後悔。  その全てを覚悟して君に気持ちを伝えたつもりだったのに、最近の僕はどうかしている。  君との関係を終わらせたいという気持ちと、今以上に君を独占したいという気持ちが僕の中で複雑に入り乱れていた。
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