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私が記憶喪失になってから一年が経とうとしていた。
私は一年前に突然倒れ頭を打ち、病院へ運ばれたそうだ。
目を覚ましたとき両親がいたが、私はそれが誰だか全くわからなかった。
日常生活には問題は無い。
ただ、倒れる前の記憶――特に対人記憶や思い出が一切全く何も思い出せなかった。
一年、色んな人に会って色んな話を聞いたり、繋がりのある場所へ行ったりもしたが、何も思い出せなかった。
それでも時々、耳に入った曲の題名がわかったり、すんなり歌えたりすることはあった。
また、自分のベッドのにおいと感触にホッとする感覚もあった。
でもそれらは“思い出した”というより“知っていた”という感じだった。
通っていた大学は休学し、この一年病院に行く以外何もしてこなかったが、
ようやく私は現実を受け入れ、大学をあきらめ、とりあえずアルバイトを始めることにした。
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