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「……」
「……」
これは、間違いなく黒だ。
昨日の原因が誰かは別として、桐谷は合鍵を持っている。
婚約騒動の渦中、彼女は失意のあまり取り返すどころではないまま忘れていた……とか、そんなところだと思うことにする。
「……ま、とにかくあの部屋はもう危ないね。セキュリティもないし」
目的のためなら、不本意な情報でも素知らぬ顔で利用すべし。
効果アップのため少々の沈黙を置いてから、背が縮んだのかと思うほど小さく丸まっている彼女に、にっこりと微笑みかける。
「引越し日和だね。二人とも休みでちょうどよかった」
窓の外の晴天を笑顔で指差しながら、僕は将来、嫌な上司になるタイプに違いないと思った。
専務みたいなのにはなりたくないんだけど。
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