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「あの猫だよ」
やはりちゃんと僕に親愛の情を持ってくれているらしく、鳴きながら近づいてくる。
よしよし。
ようやく僕の愛と努力の結晶を彼女に披露する時が来たのだ。
「おいで」
しゃがんで手を伸ばす。
きっとあの柔らかなモフモフの頬をまた僕の手にこすりつけてくれるはず。
……が。
「にゃあーー」
「……あれ?」
茶猫は僕の手を素通りして里英の足元にお座りすると、目をキラキラさせながら彼女を見上げた。
「こんにちは、猫ちゃん」
「にゃーーん」
彼女が泣きそうな顔で笑うと、猫は聞いたこともないような甘ったるい声で鳴きながら彼女の脚に顔と身体をこすりつけ始めた。
「かわいい……」
「にゃーーん」
彼女がしゃがんで猫を撫でる。
すると茶猫はうっとりした顔でゴロンとひっくり返り、フワフワの腹を見せた。
「猫ちゃん、お歳はいくつ?一人ぼっちで頑張ったんだね、偉かったね」
「にゃーーん」
二人……いや、一人と一匹はもはや完全に僕の存在を忘れ去っていた。
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