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ひとり蚊帳の外状態の中、笑顔を張りつける僕の目の前で、猫はちゃっかり彼女の膝に乗ってゴロゴロ甘えている。
「抱っこしてもいい?猫ちゃん」
「ふにゃーーん」
それにしても態度が違いすぎるんじゃないのか?
彼女の腕に抱かれ、胸に顔をこすりつける茶猫がどや顔に見えるのは気のせいか。
「一緒におうちに来てね。ずっと一緒に暮らそうね」
でも彼女が気に入らないのではという心配は杞憂だったようで、彼女は嬉しそうにずっと猫を離さず話しかけている。
うんうん、そうだ僕はこんな姿が見たかったんだ。
スタッフが離れた隙に彼女が僕を見上げた。
「ありがとう……本当に最高のプレゼントです。一緒に過ごせて、引っ越しもできて、猫ちゃんまで。最高に幸せな誕生日です」
笑って細めた目からポロリとこぼれた涙に、これまでの苦労も何もかも吹き飛ぶ。
ところが、彼女の次の言葉で僕は真顔に戻った。
「この子、カツオって名前にしていいですか?」
カツオ……。
タマでもポチでもなく、どこからどう聞いても人間の男の名前だ。
それも、そこはかとなく漂う時代臭が何ともリアルな。
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