「あの日、鍵は捨てた。もう誰も住んでないだろうけど」
その言葉を聞いて、振り返る。
「会ってないよ。何のことか分からなかったら聞き流してくれていい」
視線を落としたまま、さっきの僕の台詞を引用して桐谷が笑った。
やはり桐谷は部屋に行ったのだ。
そしてもう帰る場所があそこではないことを悟ったのだろう。
施錠忘れを指摘するのはやめた。
桐谷は友人に囲まれた新婦をチラリと見てから低い声で続けた。
「円香がしたことはすべて聞いた。悪かった。俺が中途半端だったせいだ。目が覚めたよ」
「……」
「式は二週間後だよな?」
「ああ」
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