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僕は忙しなくあれこれ考えめぐらせ、勝手に彼女の制服姿まで想像してみた。
たて襟の白シャツに、躰にフィットした黒のパンツ。ギャルソンエプロンを、華奢な腰に巻き付けている。
大人っぽいユニフォームが、かえって彼女の若さを前面に出しているように見えた。
ロングヘアをアップにしているから、うなじのあたりが色っぽい。
「お待たせいたしました」
湯気の立つディナーが運ばれてくる。
美味そうな匂いが鼻の粘膜まで浸透して、反射的に腹の虫が鳴った。
「どうぞ、ごゆっくり」
にっこり微笑んで、彼女は厨房へもどっていく。
とにかく空腹を満たしたい。僕は無心でナイフとフォークを動かした。注文したのはヒレカツで、胃が消耗しそうなメニューだが、何より飢餓感が勝っていた。
食事を下げてもらったあと、ブレンドを飲みながら、僕は読みかけの小説を取り出す。
すっかりストーリーに入り込んでしまい、コーヒーがつぎ足してあるのに気づかなかった。
三杯目を口にしたとき、腕時計は九時を回っていた。
会計を済まそうとレジへ向かうと、僕は最後の客だった。
「ありがとうございます」
ウエイトレスの彼女は、あざやかな手つきでつり銭を差し出す。味が好みだったから、また来たいなと思った。
「照明をかなり落としてあるので……」
「えっ」
「目が、疲れませんでしたか」
「ああ……大丈夫。ありがとう」
彼女はにっこり微笑む。
若いのに気配りのできるひとだなと感心した。しっかり教育されているのだろう。
「また、お越しくださいませ」
また来るよ、そう言いたい気分だった。
僕は外へ出ると、すぐ脇に設えてある木製のベンチに腰を下ろした。
先ほど店内で感じた、やわらかな雰囲気の余韻に浸りたかったのかもしれない。
夜風が気持ちよくて、しばらくぼんやりした。
頬を撫でる風が冷たくなったのを漠然と感じたとき、一瞬、自分がどこにいるのか理解できずにいた。
腕時計は午後10時40分だった。
店を出たのは確か10時前だったから、ずいぶんぼんやりしていたことになる。
己に呆れながら立ち上がり、鞄を抱える。
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