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もう離れたくない、帰る場所もわからない。
そう言って困らせてしまったけど、公園に置き去りにするわけにもいかないからって、ゆうちゃんは自分のおうちに連れて帰ってくれた。
ゆうちゃんちは初めて見るマンションの部屋だった。
落ち着かなくて、部屋の中でゆうちゃんの後ろをついて歩いていたら、呆れられてソファーに座らされた。
「これ飲んで、落ち着きなさい。」
あったかいミルクだ。
「ゆうちゃんがいつも飲んでるやつだね。」
「…どうしてそんなに詳しいんだろう?」
確かにそうなんだけど。と、ゆうちゃんはいつもと同じように自分のカップを両手で持った。
真似っこして両手で持って、ミルクを飲む。
「あつっ!」
ビックリして慌てて口を離して、テーブルにカップを置いた。
あったかいミルクってこんなに熱かったんだ。
「温め過ぎたかな?」
そう言ってゆうちゃんも一口飲んだけど、どうやら平気そう。
「そっか、ね……」
言いかけた言葉と動きがピタッと止まる。
そして、じーっとこっちを見た。
「定期って、拾ったの?」
「ていき?」
首を傾げると、ゆうちゃんはポケットから魔法のカードを出して見せた。
「魔法のカードは、持ってきたんだよ。」
「魔法のカード?」
今度はゆうちゃんが首を傾げる。
「それがあれば、ゆうちゃんは絶対戻ってくるから。
でもね、あの日は戻ってこなくて、それからずっと…」
しょんぼりしていると、ゆうちゃんの温かい手がゆっくり頭を撫でた。
「クロなんだね。」
クロ…。
ああ、そうだ。
ゆうちゃんが付けてくれた名前なのに、なんで忘れていたんだろう。
初めて公園で出会って。
ゆうちゃんちでは一緒に暮らせないから、ゆうちゃんの大切な人のおうちで暮らすようになった。
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