第15章 三角を完成しよう

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早めに着いてしまったので、彰良がまだ来ていなくてもおかしくない。俺は手近な席にとりあえず腰を落ち着けた。 ドアの開く音がして、俺のオーダーを取ろうと近づいて来た店員が顔を上げ、呼びかけた。 「…あ、澤村さん」 俺の全身がぐっと緊張した。澤村。 彰良だ。 彼は俺の姿をすぐに認めたようで、まっすぐにこっちに進んできた。店員が何故か怪訝そうにその様子を見ている。彰良がここの常連なら、彼の独特な雰囲気に驚くこともないだろうと思うんだけど。 彼は俺のテーブルの傍に立った。ひと言口にする。 「…そっちの席でいい」 抑揚がないのだが、多分疑問形だ。指し示す方向に、ここより少し物陰感のあるテーブルがある。店員さんが納得したように笑った。 「なんだ、澤村さんのお知り合いだったんだ。びっくりしちゃった。いつもと違う席に座る気なのかと思ったよ」 つまり、この店でもやはり席が決まっているのだ。高校時代の図書室と同じだ。 俺は当然どの席でも全く構わない。示されたテーブルに素直に着く。 言葉少なながらも店員とオーダーのやり取りをしている様子などを見ていると、以前会った時に感じた異様さがだいぶ薄らぐ。慣れた場所や相手だと落ち着いて安定した行動が取れるということを考慮しても、彼なりに居心地のよい場所を確保して日々の生活を暮らしやすくする努力をきちんと払っているに違いない。 そうだよな。大学で学生生活を送って、週末以外は自力で一人暮らしもしているんだから。俺が勝手に想像してたより応用力や柔軟さは持ち合わせているんだろう。 やっと席に落ち着き、改めて彼を観察する。以前はその違和感のある挙動や目線にばかり目がいっていたが、こうやって見ると大変涼やかな美形である。なるほど、この雰囲気で神秘的に毎日ひっそり図書室に出没されたら、その視界に入りたいと思いつめる女の子の一人や二人、現れてもおかしくない。てか、菜摘。俺は内心拗ねた。お前、実は面喰いか。俺がイケメンじゃなくて申し訳なかったな。 …えーと。 そうだ。自己紹介。 「あの、新崎と言います。なつ…、藤川さんとは一年の時から同じクラスで」 彰良は俺の言葉を遮るように頷いた。どうやら、それは知ってる、ということを伝えたいらしい。やれやれ。一体何処まで知っていて、何を知らないんだろう。わかる範囲でいいから、菜摘に確認してくればよかった。 彼は前置きなしだった。社交辞令もなし。
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