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いよいよ、二人はこの冒険を終わらせるためにツーソンへとやってきた。娘を溺愛しているあのパパもポーラの帰りを心配しているだろう。それを考えると、これ以上寄り道はしていられなかった。
幼稚園兼ポーラの家であるポーラスター幼稚園までは、もう歩いて何分もかからない。二人の足取りがだんだんと重くなっていった。ゴールが目の前だと思うと、一歩を進むのがとても躊躇われた。
通りにはいつもと変わらないハンバーガーショップやホテルや病院が並んでいた。旅の間はよくお世話になったが、今はもう寄る必要はない。そんな建物の間を縫うように風が吹いて、背中から二人の間を通り過ぎていった。風の向こうには、もう進むべき道はなかった。
「ネス……送ってくれてありがとう。」
「……」
「……言いたいことがあったけど、忘れちゃった。今度会った時までに思い出しておくわ」
言いたい事は、ネスにもあるような気がした。しかし何も言葉が出てこなかった。
「……じゃあ……さよなら。あ……さよなら。……またね」
大きな建物の中に入っていく様子をネスは黙って見ていた。どこか寂しげなポーラの背中は、扉の向こうに消えていった。
時間はさらに遡った。旅の初めと同じようにネスはまた一人になった。街の様子もさっきまでとは違って見える。一人で歩く街並みは妙に静かだった。
今度は一人で世界を回れば、また違ったものが見えてくるだろうかとも思ったが、一人でやる気力は湧いてこなかった。どっと疲れも増したように感じる。
もう帰ろう。
ツーソンからオネットへと移動し、町外れの北へ北へと歩いていった。通り慣れた親しみのあるいつもの道。ついさっきまでの壮大な冒険は夢だったのだろうか。現実とはあまりにもかけ離れた空間にいた気がする。それは少なくとも夢のように一瞬だった。
小さな世界に小さな家がポツンと建っていて、その隣には少し立派な家が建っている。ポーキーの行方は知れない。ギーグの闇に飲まれた彼はどこへ行ったのか。
帰るべき場所には、ネスの小さな心で溢れんばかりに膨れ上がった喜びや悲しみを、全て受け止めてくれる偉大な母が待っていた。
fin
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