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以来、雨の日も風の日も自転車で通い続けている。休んだのは、インフルエンザになった時と……奴らを殺した翌日だけだ。
やがて五時になり、工場を後にする綾人。今までと全く同じ一日だ……人を殺したというのに、自分の人生は何も変わらない。ひょっとしたら自分の人生は、このまま何事もなく過ぎていくのか?
そして、生き続けてしまうのだろうか?
あれだけのことをしておきながら、何事も無かったかのように……。
だとしたら、俺も奴らと同じクズだ。
自転車に乗り、帰り道を走る綾人。今日は残業をせずにすんだ。さっさと家に帰ろう。しばらくしたら、面倒な事になるかもしれない。それなら、せめて今のうちだけでものんびりしたい。
そんなことを考えながら、綾人は自転車を走らせていた。だが……。
前方に、男女の二人組が歩いている。
次の瞬間、二人の顔がこちらを向いた。
そして、不気味な笑みを浮かべた……ように見え、綾人は思わずブレーキをかけた。その場に立ち止まり、じっと見つめる。
やはり別人だ。
まただ……。
またしても、殺したはずの顔が見えた。
殺したはずなのに、微笑んでいた……。
綾人は必死で気持ちを落ち着かせようとした。これは気のせいだ。あの二人が生きているはずはない。自分が殺し、そして死体を始末した。わざわざ仕事を休み、一日がかりで深い穴を掘って埋めた。仮に生きていたとしても……穴に埋められ、土を被せられた状態から這い上がって来るのは不可能だろう。
自分はどうかしている。殺人という行為に対する恐怖が幻覚を生み出した。どうやら、今になって良心の呵責に苛まれているらしい……綾人は苦笑し、自転車を走らせる。しかし、動揺しているせいか自転車を上手く操縦できず、そのまま車道に出てしまった。
そこに迫る車――
次の瞬間、車は急ブレーキをかける。だが間に合わず、綾人は自転車ごと車に当てられた。そして倒れこむ。
「すみません! 大丈夫ですか!?」
声と同時に、車から中年の男が降りて来た。心配そうな様子で綾人を助け起こす。
だが、綾人は愛想笑いを浮かべて立ち上がる。
「大丈夫です……こっちこそすみません」
頭を下げ、立ち去ろうとした綾人。軽く当てられただけだ。倒れはしたが、体に痛みはない。問題ないだろう。
だが、後ろから別の声が――
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