暴力脱走

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 中学卒業後に就職してからの二年間……ほぼ休まずに通い続けた。給料は安い上、キツい部分もある仕事であった。しかし、こんな形で辞めるほどの不満は無かったはずだ。  その反面……二年通い続けた場所であるにもかかわらず、そこに愛着らしきものも無かった。  結局、ここに就職した一番の理由は……母に親孝行したかったからだ。しかし母が消えた今、工場に通い続ける理由も消えた。 「綾人……」  母の声……綾人が視線を移すと、母は怯えきった表情で綾人を見ている。 「母さん……」  綾人は近づく。自分のしでかしてしまった事の大きさの前に打ちのめされ、どうすればいいのかわからない。  だから、母にすがりたかった。幼い頃のように、母の温もりに身を委ねたかった。  しかし―― 「こ、来ないで!」  叫びながら、必死の形相で後ずさっていく母……綾人は立ち止まった。  絶望のあまり、その場に崩れ落ちそうになる。  綾人は、母にまで見離されたのだ。  母さん……。  あなたまで、俺を拒絶するのか。  もう、俺には何もない。  次の瞬間、綾人の心はドス黒い何かに塗り潰されていった。綾人は母の首に手をかけ、両手に力をこめる――  あの日、俺が殺したのは……中村雄介と母さんだけじゃない。  俺は……俺自身の中の善なる人間をも殺してしまった。  もう、俺の人生は終わった。  あとは、どのようにして終わらせるか……それだけだ。  ・・・  上田春樹は、ルイスを見つめる。美しく整った顔立ちだ。目、鼻、口などのバランスもいい。まともに育っていれば、さぞかしモテたことだろう。  だが、ルイスはまともではない。本物の殺人鬼なのだ……。 「おい上田、なんか面白い話してくれや」  隣の部屋から、佐藤浩司の声がした。春樹は内心うんざりしながら、隣の部屋に行く。  だがルイスは、じっとテレビを観ていた。  昨日、桑原徳馬が訪れた時……春樹はおずおずと声をかけた。 「すみません……」 「何だ」  桑原は不気味な目で、春樹を見る。春樹は震えながらも、どうにか言葉を絞り出した。 「大丈夫でしょうか……もしルイスが暴れ出したら――」 「そん時は、お前らが何とかしろ。ただし、傷は付けるな」  桑原は無表情のまま言い放った。  しかし、春樹はなおも食い下がる。桑原への恐怖よりも、ルイスから受ける脅威の方が遥かに上回っていたのだ。
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