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記憶喪失になって――その自覚はまったくないのだけど――2日目。
「ようちゃんお部屋の模様替えの最中に
倒れてきた家具の下敷きになって頭をぶつけたから……。
そのせいで私のこと忘れちゃったのね……。
私を庇ったりしたから…私のせいで~~~……っ」
俺は今、キッチンに向かって上機嫌に鼻歌を口ずさみながら
料理を作っている「奥さん」とやらの背中を見つめて
昨日彼女が俺に言った言葉を反芻していた。
怪しい…。
怪しい以外の何物でもない。
昨日は頭が痛すぎてほとんどまともな思考が出来なかったが
今日は違う。
こんなに可愛い人が俺の「奥さん」だなんて、あるはずない…!
俺は改めて、そう考えていた。
身長はたぶん158センチくらい。
髪は黒髪サラサラストレートロング。
黒目がちのパッチリした瞳と、ぷるっと小さい唇が
童顔っぽさの中に微かなエロスを含んでいる。
さらに!!
足は細いし肩のあたりなんてものすごく華奢な感じがするのに
出るとこ出ているメリハリボディー……って。
好きなタイプ過ぎて、
本来なら口をきくことすら躊躇われるほどの相手だ。
彼女どころか結婚だなんて、どう信じろと言うのだ。
とはいえ、部屋の中は確かに模様替え真っ最中の気配があったし
コップや茶わんや歯ブラシやら、明らかにペアで置いてあるし
決定的な証拠としては、リビングに俺とこの「奥さん」の
ウェディングの写真が飾ってあったりもする。
ちなみに、この「奥さん」以外のことはちゃんと覚えていた。
会社のこととか家族のこととか…。
自分がどんな人生を生きてきたかは、ちゃんと覚えている。
だからこそ、「奥さん」の存在が信じられなかったりするのも
真理ではあるのだが。
俺って…彼女いない歴=年齢を更新し続けてたはずだよね…。
まじで、ホントに「奥さん」とかありえないと思うんだけど。
…では、彼女が言ったことは全てが本当なのであろうか?
やっぱりそれは信じらない。
考えられるのは、
彼女が結婚詐欺師か美人局の類であるという可能性。
それだって、俺たちの結婚を事実として受け止めざるを得ないけど。
「ようちゃ~ん…! 朝のオムライスできたよぉ?」
あれこれと頭を悩ませていた俺に
彼女はどこか能天気な声を掛けてきた。
「どうしたのぉ? オムライス冷めちゃうよぉ?」
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