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ここはアメリカのハリウッドにあるルーズベルトホテル。
開業90年になる老舗ホテルで、第1回アカデミー賞授賞式の会場にもなったことがある。
そんな華やかな歴史に比せず、このホテルには幽霊が出没するという噂がある。
そのなかでも有名なのが、世紀の有名女優マリリン・モンローの霊である。
過去にあったプールサイドで、水着姿のマリリンが歩いていたとの目撃情報がある。
それよりも有名なのが、この地下1階にあるマリリンが愛用していた姿見の鏡である。
その姿見にマリリンが映るというので、その取材にこのホテルを訪れていた。
今は零時に近い深夜──地下1階には啾々と冷たい霊気が漂っていた。
目の前にそびえるマリリンの姿見は、2メートルを優に超える大きな鏡である。
姿見の鏡に私が映る──鏡は心の合わせ鏡、怨みに囚われた惨めな女が映っていた。
私は意を決して、荷物のなかから鏡を取りだした。
ある都市伝説がある──深夜零時に合わせ鏡を覗くと、そこに自分の未来の姿が映ると。
私はそれを実行する。この姿見と合わせ鏡をして、この世を彷徨うマリリンの霊を喚びだすのだ。
腕時計の針が0を指した。胸の前に鏡をかざしながら、おもむろに姿見の前に立つ。
どこまでも続くかのような鏡の無限回廊が映る。
「マリリン・モンローの霊よ、私の願いに応えて顕れよ」
私は求め訴えた。
マリリン・モンロー──アメリカを代表するセクシー女優でありながら、謎の死を遂げた不遇な女であった。
母子家庭に育ったマリリンはやがて女優となり、数々の浮き名を流す淫蕩な悪女だと噂されるようになる。
時の大統領J・F・ケネディとの不倫関係はつとに有名だろう。
それでも疎まれ棄てられて、睡眠薬自殺でこの世に幕を下ろした。
──私と同じだ。男に弄ばれ棄てられたマリリンは、私と同じ不幸な女なのだ。
「私の怨みが、無念がわかるでしょう? お願い、私の求めに応えて姿を見せて!」
請うように叫べど、なんの変化もなかった。
馬鹿にしてる。世間の奴らと一緒だ。妻子持ちと付き合うあなたが悪い、呵責な言葉で非難する。
お前らになにがわかる。身も心も焦がす愛に生きる女の、一体なにがわかるというのか。
「男が憎くないのッ、復讐したくないのッ、お願い応えて!!」
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