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高く打ち上げられたボールに視線が集まる。
「よっと」
男たちの中で一際(ひときわ)背の低い、太陽を背にする少年にボールがいった。
ボールを蹴り始めると、周りに緊張が走った。ボールをゴールに運ぶために少年は走り始めた。
風がおこった。まるで彼が台風の目のように、風が彼を味方するように、彼の足が止まる事はない。
目の前にボールを狙う二人を軽やかに避け、またゴールに走る。
________おそい、おそいおそい!
その目は獲物を狙う獣のように、相手を萎縮させる程の迫力であった。
ゴールまで、あと一歩の所だった____。
「ごおおぉぉぉぉぉぉぉぉらあぁぁあぁぁぁ!伊藤玲(いとうれい)!お前は女子だろが!」
サッカーは止まった。耳を塞ぎたくなるほどの怒号を聞けば、誰もが止まりだろうな。
「うるせぇ!かと先!今は伊藤玲(いとうあきら)だ!」
加藤充(かとうみつる)。彼は私の先生だ。昔は近所付き合いのお兄さんだっだが、もう過去の話だ。
今現在は腕を掴まれ、体育館まで連れてこられた。
「お前は女だから、体育館だ!」
「男女差別だ!それに今はアイ アム ボーイ!オーケイ?ミスターかと」
「うるせぇ!お前と俺が何年の付き合いだと思ってる!?」
「なら、俺の気持ちを考えろバカ!今は男だ!」
「うるせぇ!!」
俺の腕を壁の方に投げ、強い衝撃を受けないよう受け身をとる間に、かと先の顔がすぐ近くにあった。
「おまえ、いつまでそうしているつもりだ?」
これは、女の子憧れの【壁ドン】だった。
それに気づいた時、胸の鼓動が高くなっていた。熱が一気に頬に集まるのがわかった。女としての自分の意識が蘇えようとしていた。
かと先の股を蹴り上げた。
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