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しかし当の本人たちは、他人の目など全くお構いなしに会話を続けている。まるで、楽しくて懐かしくてたまらないとでもいうように。
「あれはおまえが昔、俺の部屋に忘れていったものだったんだよ! 大切にしていたのに、これでもうお終いだと思ってあの時おまえに返したんだ」
「だからあんな返し方しないで下さい!」
「それならもうあれは諦めるが、なにか別のものを寄越せよ」
「別のもの?」
きつい口調で返した入江だったが、次の瞬間、にっこり微笑んだ。
「物なんかじゃなく、俺が貴方に差し上げられるものが一つだけありますよ」
不思議そうに見つめてくる荒武の手を取り、入江はその手を自分の胸元に導いた。そして、荒武が鼓動を感じられるようにてのひらを胸にぴったり当てさせ、目をつむって呟いた。
「俺の心です、忍さん」
荒武は驚いたように入江を見た。
対等な人間同士としての二人の新たな関係は、ようやく始まったばかりだ。
■ E N D ■
<注>
このページの部分を更新し忘れてました
まぁあってもなくてもって感じですが
一応しれっと挟み込んでおきます
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