序章

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太陽が半分程地に沈み、空は赤く染まる。 赤に染まりあがる空の下に、人で賑わう小さな農村があった。 畑仕事の始末に追われるものが大半を占める中、ふと女性の甲高い悲鳴が木霊した。 始末に追われた者たちは足を止め、その悲鳴の方へ顔を向ける。 村娘の一人が恐怖に顔を歪めていた。体はひどく震えている。 その恐怖の元は娘の眼前に立っていた。 豚の鼻と、薄汚れた大きな牙、体は巨体で薄黄色で、全身に脂肪がこびり付いている。腰に革製の腰巻を巻き付け、地肌に薄手のジャケットを羽織っている。 亜人種ーオークと呼ばれる生き物だ。 オークは人を食らう、それを知っている村人達は静かに愛用の農具を手繰り寄せ握る。 オークは低く唸り声のような声を発する、何かを訴えるかのような必死の形相で言うが、オークの声帯は独特であり人間には理解できない、故に村人には呪詛と変わりがなかった。 生を欲するかのように、貪欲で卑劣な形相を浮かべるオークは絶えず口を動かし続ける、口が開かれるたびに唾が飛翔し新鮮な空気を強烈な異臭で塗りつぶしている。 亜人種の眼前に立つ村娘は、そのあまりに醜く、耐えがたい臭気に口元を抑える。胃の中の物が逆流しそうになるのをこらえながら、震える体で後退る。 それを皮切りにオークの足が動く、いまだオークは呪詛のような言葉を上げ続けながら一歩一歩と静かに娘へ詰め寄っていく。 娘の前に、醜悪の塊が迫っていく。それは、娘の後退する歩幅よりもわずかに早い。 それが、何を意味するのか、囲うように注視していた村人たちにはわかった。
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