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「景虎はどう思った?」
彼女のほうに視線を向ける。月を眺める景虎はとても美しい女性のように感じられた。しかしその表情はどこか儚げで危うさすら感じる。
「……私は、自分が怖くなりました」
彼女の声は震えている。今にも泣き出しそうなほど弱々しい。
「私は人を斬ったとき、自分が生きていると、なんて楽しいんだと思ったんです」
そう言って彼女は月から俺の顔へと視線を移した。
「……」
不安そうな表情に言葉が出てこない。
「斬る前は恐怖も少なからずありました。でも」
景虎がひと呼吸置く。
「でも、斬った瞬間、その感覚や血の匂い、そういったものを美しく、楽しく感じた、力さえあれば今の長尾のように無駄に争うこともなく、平和に暮らせると思った、私はおかしいのでしょうか?」
相変わらず不安そうな表情でこちらをみつめてくる。
「……わからない。俺もそうだけど景虎だって初めて戦にでたんだ。だから感じ方なんて多少違いはある。景虎はいままで戦に出るために努力してきたんだからそう感じるのは普通なのかもしれない、何より景虎の言う力があれば平和に暮らせるっていうのも正しい、でも正しくない。ようは人それぞれの考えだ。だから自分がおかしいなんて攻めるようなことはしないで前を向いていけばいい、そう思う」
わりかしかっこいいことを言うなと心で自賛しながら真っ直ぐに景虎の目を見る。彼女の虹彩は日本人特有で綺麗だ。
「輝広……、そうですよね。前を見て進めばいいんです」
彼女は自分に言い聞かせるように呟く。そして俺の目をしっかりと真っ直ぐ見つめる。その目には迷いはないという自信が感じられた。
「ありがとうございます、あなたとあえてよかったです。そしてこれからも私のそばで私を支えてくださいね」
いたずらっぽい笑顔で彼女は盃を酒で満たしこちらに差し出す。
「俺なんかでよければ」
そういって笑顔でその盃を受け取る。
「儚い人生、そして命に」
唐突に景虎がそうつぶやいた。
「儚い命に」
俺はそれだけいうと酒を飲み干した。
これからたくさんの困難が待ち受けているだろう。俺は景虎を精一杯支えようと決心した。
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