17人が本棚に入れています
本棚に追加
視界が霞む……。
体の節々は全く動かない。あるのは痛みという感覚。
幸い視線は動くようだ。赤いランプが回っている。白い服の人たちが自分の周りでせわしなく動いているのが微かにわかった。視線をさらに動かすと地面に赤い液体が溜まっているのがわかる。
「……っ」
体を動かされ痛みがさっきよりひどくなる。しかし次第に痛みは快感に変わり……、視界が暗くなっていった。
「心肺停止! 蘇生措置を行います!」
最後に聞こえたのは女性の言葉だった。
ー??城ー
「うっ……」
まぶたの上から光を感じる。
「……朝か」
額に上腕をあてまだ重い瞼を開ける。天井が見える。当たり前だが何か違和感を感じた。
「……」
上半身を起こす。どうやら布団に寝ていたようだ。
「ん? 布団?」
自分はベットに……。
そう思いながら周りを見回してみるとどうもいつもと様子が違った。
「なんだここ?」
床は畳、微かに開いている障子の隙間から明かりが差し込んでいる。古い材木のような香りがし、部屋には小さな机と掛け軸、書棚、質素な空間といっていいだろう。
しばらくぼんやりとそれらを眺めながらなぜこのような状況なのか思案する。
たしか……。
親と妹の顔を思い出す。いつものように家をでて、近くの高校へ向かった。そのあとはいつもどおりの一日を過ごして、下校した。
そこでふと思う。家に帰宅した記憶がない。
「俺‥…」
友人の驚く顔、その場にいた人たちの叫び声。宙を舞う視界。
「うっ……」
一気に記憶が脳裏に蘇り吐き気を催す。とっさに手を口に当てる。
「……怪我は?」
そう呟いて自分の体を確認する。痛みは……ない。
「どうなってんだ……」
事故にあったはずなのに自分の体に傷一つない。傷どころか痛みすらない。
「あ、目が覚めましたか?」
障子が開くと同時に凛々しい声が聞こえる。
声の方をみる。初めは光に目がくらんだが次第になれてくる。どうやら女性のようだ。
「え……」
間抜けな声を上げ、その女性を見る。自分よりいくつか年下だろうか? 顔には幼さが残っている。身長はおそらく低い。髪を後ろで一括りにしているようだ。
最初のコメントを投稿しよう!