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彼女はお盆にお椀を載せている。
「どうかしましたか?」
自分の横に彼女は正座し、お盆を置きながら彼女は尋ねてくる。
「あ、いや……」
あまりにも自分が思ったことが恥ずかしくて言葉を濁す。
「ん~、言いたくないのなら構いませんが……。どうぞ。」
彼女はそう言って持ってきたお椀を差し出す。
「あ、どうも」
相槌を打ちながらそれを手に取り口に付ける。
「にっがっ!」
そう言って顔をしかめた。
「ふふ、良薬は口に苦し、です。」
そう言って彼女は花のような笑顔を咲かせる。
「す、すいません」
薬だと知ってちまちまと薬を飲み始める。
「あの、どうして城内で倒れていたのですか?」
その問いかけにしばし放心してしまう。
「……えっと、城内、ですか?」
聞きなれない言葉に尋ね返してしまう。
「はい、城内です。もしかすると記憶がないのですか?」
すこし不安そうな顔をして彼女は俺を覗き込む。
「あ、えっと、交通事故にあったとこまでは記憶してるんですけど……」
そう言うと彼女は不思議そうな表情を作る。
「こうつうじこ? ですか?」
「えっと、はい」
彼女は数回交通事故とつぶやきすこし間を置く。
「……あなたの名前は?」
次は名前を聞かれた。
「えっと……、輝広、苗字は……」
そこまで言って言葉に詰まる。自分の苗字はなんだったか思い出せない……。
「輝広……。良い名ですね。私は長尾景虎と申します。」
そう言って彼女は親しみのある笑顔を見せる。
「長尾さん……」
そんな友達いただろうか。いや、そもそも名を尋ねてくる時点で友達ではないのだろう。それよりも自分の苗字はなんだったか。
「すいません、あの、俺の苗字とか知りません……よね?」
ダメもとで尋ねてみる。
「……すいません、わかりません。どこか名のある方なのでしょうか?」
そう尋ね返され一瞬驚く。
「いや、名のある人じゃないです。ただの高校生ですよ」
そういうとまたもや彼女は不思議そうな表情になる。
「その、高校生とは何かの役職でしょうか?」
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