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ー数時間後ー
あれからしばらく長尾さんに話を聞いてわかったことがある。
ここはどうやら越後国、俺の時代では新潟と言われる地名にある栃尾城という山城らしい。信じられないことに昔の時代にタイムスリップしてしまったようだ。
信じられないことにしばらく放心状態になる。
「殿、やはり先の件は取りやめたほうがいいのでは?」
長尾景虎の横に控える男が告げる。彼はあとからこの部屋にやってきた人物だ。
「む、実乃、私の判断が間違っていると?」
景虎はそういって男を睨む。
男の名前は本庄実乃(ほんじょうさねより)と言う。長尾景虎の側近らしい。そして彼の呼び方のとおり、長尾景虎はこの城の城主、つまり殿様らしいのだ。
「殿の間違いとは言いませぬが……、このもの自分の名すらまともに覚えておらぬと、審議は定かではないですがな。そのような男を召し抱えるなど無駄に穀潰しを召し抱えるのと同じですぞ。」
そういって実乃はこちらを訝しげに一瞥する。
「むむ、では……輝広」
そういって長尾さんが俺を見る。
「な、なんでしょう」
「剣術に腕はありますか?」
真剣な眼差しでこちらを見ながら尋ねてくる。
「あ、えっと……」
俺はちらっと実乃を見る。顎鬚を蓄えている顔は妙に迫力があった。
「しゃきっと答えんか!」
目があった瞬間、実乃が怒鳴る。
「は、はい! 一応2段です!」
怒鳴られたからだろうか、妙に声に力が込められる
「にだん? それは……腕に覚えがあるということですか?」
そう質問されこの時代に段級審査なんてなかったのを思い出す。
「は、はい、一応は……」
「ほう?」
俺の答えに実乃が口角をあげ不気味に笑う。
そんな実乃を見て俺はすこし背筋に悪寒が走ったような気がした。
「そうですか、実乃、腕に覚えがあるようです。これなら召し抱えるのにも文句はないですね?」
長尾さんがそう言って実乃の解答を待つ。
「どうでしょうな、殿に取り入るために偽りを申しておるかもしれませぬ」
意地悪そうに実乃が答えた。
「む、偽りなのですか?」
長尾さんが偽りではないでしょう、といった眼差しでこちらを見つめる。
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