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「あ、はい、あるかと言われたらある……と思います」
しどろもどろに答えたのがまずかったのだろう、実乃の眉間にシワが刻まれている。
「はっきりせんやつよ……、えぇい! こうなったらわしがそなたの技量見極めてくれよう」
実乃はそう言うとついて参れと吐き捨て部屋から出ていってしまう。
「あ、実乃……、すいません、付いてきてください」
長尾さんは申し訳なさそうにそう言って部屋から出て俺を待っている。しぶしぶ布団から出て彼女の後を追うことにした。
ー道場ー
道場のような建物に案内された。目の前には木刀を持った実乃が仁王立ちしている。自分の右手には木刀が……。
「あの……」
「さっさと構えぃ!」
大声で怒鳴られてはいと返事をし、構える。
「ほう、構え方はなかなかに様になっておるな」
実乃は口角を上げながら自らも中段に木刀を構える。
数十分後、道場にはヘロヘロになって仰向けに寝転がる青年が一人いた。
「ふむ、全くの素人ではないようだな、殿、これならばそこいらの者よりは役に立ちましょう」
息一つ乱れていない実乃が長尾さんに向かっていうと彼女は微笑する。
「やはり私の目に狂いはないみたいですね」
実乃にそう言うと彼女は俺のそばまで来て手を差し伸べる。その手を握ると女性と思えない力でぐっと引っ張られ体を起こされた。
「ありがとうございます、長尾さん」
俺がそう言うと彼女はむっと不機嫌そうにこちらを見つめた。
「他人行儀な呼び方は好きません。それにあなたはこれから私の近くで働いてもらうのですからできれば景虎、と呼んで欲しいです」
真面目な表情で彼女はそう言うので若干返答に詰まってしまう。
「こらこら、殿、輝広殿も一家臣。つまりわしと同じように殿、と呼ぶか景虎様と呼ぶこれが」
「実乃はいっつもそうやって口をはさみますね?」
そう言って景虎が実乃を見ると彼はそれは側近ですからなと捨て台詞を吐き黙り込んでしまった。
「むぅ、側近なら景虎と呼び捨てにすればいいのに、私は別に気にしませんよ」
景虎は実乃をしばらく見たあと俺に視線を戻す。
「わかりましたか?」
若干の期待のようなものを込めた眼差しがこちらを見つめる。
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